米国リポート (1999年6月)

● プログレッシブ保険

プログレッシブ保険会社については生保版の「ブローカー・リポート」でも何度か取上げてきました。 同社は標準外自動車保険(高リスク)の引受けによって拡大し、最近は標準及び優良リスクの自動車保険の引受も開始しました。 今や自動車保険シェアでは全米5位、2000年までに3位になることを目標としています。 独立エージェントを主たる販売チャネルとする保険会社ではありますが、最近複合チャネル販売を採用し始めた多くの会社の例にもれず同社も直販を始めました。

自動車保険のニッチ・マーケター(特殊な商品、流通方法を採用している保険会社)として株式市場で現在最も注目されている保険会社(プログレッシブ、マーキュリー・ジェネラル、GEICO等) の一つでもあります。 『Independent Agent』5月号の同社のプロフィールともいえる特集記事をお届けします。

プログレッシブ(進行する)ジレンマ

エージェンシー・システムの敵なのか、味方なのか?

高い評価を受けている保険会社について意見を求めると、通常非常に極端な回答が返ってくるものだ。 エージェントの多くがその強力なブランド・イメージと一貫性のあるビジネスのやり方を誉める、 しかし、 一方で同社のダイレクト・ライティング(直販)への野心、報酬体系、信頼性に疑問を投げかけているエージェントも存在する。 彼等はプログレッシブ保険会社が二重人格を持っている、と語っている。

プログレッシブ・グループはその名前が示す通りの会社である; 進歩的、漸進的。 急速に知名度を高めたその自動車保険引受会社は、ダイレクトライター(注1)によって自動車/ホームオーナーズ/アンブレラ/生命等、包括的にカバーされている顧客以外のマーケットに進出を続け、うらやむほど立派なブランド・イメージを作りあげた。

しかし、エージェンシー・カンパニー(注2)として自動車保険シェア米国第一位の座を懸命に目指しているオハイオ州メイフィールド・ビレッジに本拠地を置く同社に対し、エージェントは“少々進歩的過ぎるのではないか”という疑問を抱いている。


ダイレクトライター: 専属エージェントを通じて保険を販売する保険会社。 個人保険(自動車、ホームオーナーズ、アンブレラ等個人を対象とする保険)分野におけるダイレクトライターのシェアはほぼ70%に至る。 例) ステートファーム、オールステート、ファーマーズ

エージェンシー・カンパニー: エージェンシー・ライターとも呼ばれる。 主に独立エージェントを通じて保険を販売する保険会社。 例)AIG 、ハートフォード、エトナ、チャブ、トラベラーズ


勿論、同社は1980年代、他の保険会社に引受を拒否された、打ち捨てられたマーケット(=顧客層)である標準外自動車保険(=高リスクの自動車保険)の引受けに乗り出し、そのマーケットを生返らせた。 プログレッシブが標準外リスク・マーケットでの驚くほどの収益を上げたことを見て、他保険会社もそのマーケットに進出した。 1994年、プログレッシブ保険会社は対抗策として、標準及び優良リスク自動車保険プログラムを開発し、自動車保険専門の引受保険会社として成功したのである。 プログレッシブは従来からのビジネスのやり方を維持している保険会社を一掃し、彼等 、特にダイレクトライター、 のシェアを奪った。

現在、同社はホームオーナーズとアンプレラ保険の販売を予定している。 個人保険分野のこの二つの保険商品を自動車保険と組み合わせ、割引を提供することによって独立エージェントの販売に優位性を持たせようとしているのである。

30,000社以上の独立エージェンシーがプログレッシブと委託契約を締結しているのは不思議ではない。 この2年間、彼等独立エージェントの自動車保険における新規契約獲得数は、シェア全米一位及び2位のステートファームやオールステート社の専属エージェントのそれより多かったのである。 同社は、合併を行なうことなく、トラベラーズを押しのけ、標準及び優良リスク自動車保険マーケットに於いて、エージェンシーライターとして今年で連続5年間一位の座を維持した。

1937年の創業時において小規模保険会社であったプログレッシブが、確実に発展を続けて来たのにはそれなりの理由がある。 同社は多くの人々によって、無類のクレームサービス、優れたアンダーライティング方法、最新オートメーション、独創的な広告、他社より安い保険料で知られる。 知識、能力、及び資本を一つの商品につぎ込み、その商品で成功するまでは他の商品には手をつけなかったという専門(家)保険会社なのである。 プログレッシブは又、独立エージェンシーシステムの主要な支持者でもある。 IIAA(アメリカ独立エージェント協会)の全米コミュニケーション・プログラムに於いてゴールド・パートナーとしての資格を与えられた保険会社8社の内の一つである。

同社に対する否定的な見方は、1993年から94年にかけて自動車保険の直販開始を決定したことに由来している。 直販による収益は、全収益のほんの一部分にしか過ぎない、というのが同社の言い分であるが、 実際の数字については口を閉ざしている。

プログレッシブの独立エージェント担当リーダーであるダン・ルイス氏は、過去の犯した間違いについて包み隠さず意見を聞かせてくれる。 同社の共同創立者の一人の息子であり、現CEOの兄弟でもあるルイス氏は、複合流通チャネル戦略に対しては今後も実験を試みることを止めないとしながら、独立エージェンシーシステムに断固とした忠実心を持っていると語る。 “我々はエージェントに対して決して背を向けるようなことはしない”と。

現在の歩み

プログレッシブ社は常に異端者であり続けた。 1937年、同社は業界で始めて自動車保険で保険料月払いを採用し、 そして、これも始めてのドライブ・イン形式のクレームオフィスを開設した。 50年代半ば、高リスクの企業顧客が自動車保険の引受会社を見つけられなかった時、積極的に引受けを行った数少ない会社の一つである。 同社は今でも直、すべての運転者は引受可能であるという考えを持っている。

一連の刷新は続き、1990年には、業界で始めて超敏速クレーム・サービスを開始した。 事故後直ぐに − 大抵の場合、警察よりも早く − 現場に駆けつけ顧客の事故処理サービスを行なうのである。

“プログレッシブ保険会社のクレームサービスは断然優れている。 他に並ぶものはない”とラスベガスのレビット保険エージェンシー社の個人保険担当マネジャーのマーガレット・スクール氏は語る。

“私自身が最近実際に経験したことです。 プログレッシブの被保険車が自宅に衝突しました。 2、3時間以内に同社のクレーム担当者が修理業者と共に訪れ、査定し、損害見積をその場で手渡してくれました”

プログレッシブ社の『即時の応答』と呼ばれるクレームサービスは、「一日24時間一週間7日間」 対応である、とルイス氏は語る。 “当社のフリーダイヤル番号に電話するとその電話は最寄りのクレーム・オフィスに接続されます。 状況によって、或いは、顧客が要求する場合は、直ちにクレーム担当者を現場に送り査定させます。 支払小切手はその時その場で発行します”とルイス氏は語る。

良いサービスはコストを削減させる、とルイス氏は主張する:

“事故車をできるだけ迅速に査定し、修理することによって保管費用と代替用自動車のリース費用を押さえることが可能だ。 更に、迅速なクレーム・サービスを行うことにより、支払決定金額に対する被保険者の反応も違ってくる。 そして、我々が事故処理にお金を使わなければ、その分保険料を押さえることができる”と。

プログレッシブ社の場合、アンダーライティングもその創造性において際立っている。 同社は申込者の信用記録(クレジットカード等の支払歴)を引受け要件の一つとして考慮することの正当性を早い時期に理解した保険会社の一つである。 同社はこの引受基準の成果に非常に満足しており、現在用いられている顧客の分類 − 標準、優良、又は標準外 − 方法によるアンダーライティングを将来は廃止する予定である。

“我々の戦略は‘すべてのリスクには相応の値段がある’ということです”と、同社のエージェンシー・マーケティング&セールス部門ディレクター、 マーク・ザイツリン氏は、語る。 そして、同社がこれまで決して引受拒否をしたことがない、とも言う。

プログレッシブ保険会社はエージェントに対し、様々な手数料体系を提供している。 ルイス氏は語る:

“当社が様々な手数料率表を用意しているのには理由がある。 エージェントに選択幅を与えているのだ。 もし、エージェントが顧客 − 長年高い保険料を支払っている企業顧客 − を持っているとする。 エージェントはこの顧客に対し、低いコミッションを選択するはずだ”

報酬に関してこのような戦略をとるのは、業界で最も取引を行い易い保険会社になることをめざしているからである、 とザイツリン氏は言う。 “当社は契約締結後の顧客サービス − 例えば、異動処理 − をも行なっている。 そのサービスを行うことによってエージェントのコミッションを減額するといったことはしない。 又、エージェントが容易く、しかも正確に見積算出計算を行なうことができる非常に優れたソフトウェアも用意している”とザイツリン氏。

プログレッシブ社の躍進は他保険会社とのlockstep(前の人との間隔を詰めて歩調を揃える意)を拒否することに精進したことにある。 多くの人はそれを先見の明と見做す。 ザイツリン氏は“当社はいつも月並みなやり方をしなかった。 先ず枠を壊し、他とは違った方法で着手した。 それが成功したわけである”と言う。

実際その通りであった: 1998年「ビジネス・ウィーク」でフォーチュン・トップ500の『高い業績を上げている会社』に於いてプログレッシブ保険会社は33位にランクされた。 昨年、同社の正味収入保険料は53億ドル超で前年度の16%増であった。


損害査定

勿論、プログレッシブ保険会社は刷新的な商品と最上の顧客サービスだけでここまで成長したわけではない。 今日までの歴史に於いて、独立エージェントは同社の最も主要な販売チャネルであった。 1988年までエージェントの同社に対する印象は常に肯定的であった。 そして、1988年。 カリフォルニア州では提案103条(注3)が可決された。 その結果、自動車保険引受会社は大幅に規制されることとなり、彼等はほぼ20%の料率引下げを強いられたのである。

当時、カリフォルニア州における収益はプログレッシブ社全体のビジネスの20%を占めていた。 そこで同社は直ちに同州から撤退した。

“多くのエージェントとの関係もそこで切られてしまった”とカリフォルニア州ノバトのミラー・ロバートソン・保険エージェンシー社のミラー社長は語る。 IBA West(西部保険ブローカー&エージェント協会)の元会長でもあるミラー氏は、プログレッシブは、エージェントが(同社に)契約を持ち込むことを思いとどまらせるべくコミッションの水準を下げた、と語る。

ルイス氏は、提案103条の可決による規制措置は同社の歴史上最大の難関であった、と語る。 同社は総額6千万ドルの返礼保険料を支払い、従業員規模を19%縮小した。

“我々はカリフォルニア州のビジネスを大幅に縮小し、他保険会社に保険契約を移転するようエージェントを奨励したことは事実である。 我々はカリフォルニア州において失敗を犯したことは周知の事実だ。 もし、当社が提案103条可決後もカリフォルニア州に留まっていたら、今はもっと高収益を上げているだろうし、規模ももっと大きくなっていただろう”とルイス氏は語る。

今日、同様な状況に直面した場合、同様の方針をとるかという質問を投げると、ルイためらいながら、“もし当社の財務上の安定性が法的な規制によって脅かされるなら、それに対応する方針を決定せざるを得ないだろう”と氏は答えている。

ルイス氏は同社が情報を積極的に公開している、という。

“信頼が最も重要だからである。 当社は − まあ、後の祭りではあるが − 過去に間違いを犯したことを認めている。 当社は隠し立てはしない。 実際、我々があまりにも情報をオープンにし過ぎるということで批判されても良いほどである。 殆どの保険会社は、新商品、例えば、ホームオーナー保険商品の開発及び販売を企画していても実際の販売時まではそれを公にはしない。 しかし、当社の場合、エージェントに企画や方針を前もって認識しておいて欲しいのだ”

プログレッシブ社が情報の透明性を支持していることは明らかである。 同社のウェブサイト(www.progressive.com)とフリーダイヤル番号1 800 AUTO PROを通じて同社の見積だけでなく、顧客が比較できるように競争他社の見積をも提供している、 たとえ同社の保険料の方が高い場合に於いてもである。 “我々はエージェントにも顧客にも正直であり、情報を公開しているのです”とルイス氏は語る。

しかし、ミラー・ロバートソン保険エージェンシー社のミラー社長はそれを信じていない。 “もしプログレッシブがそれほどの独立エージェント支持者であるなら、何故直販を始めるのか?”


提案103条: 1988年カリフォルニア州の住民投票で可決された。 内容な次の通り:

自動車保険料算出基礎は、ドライバーの運転記録、年間走行距離数、運転経験とすること。 居住地は算出基礎には含めない
無事故運転者への20%の割引適用
銀行の保険販売許可
ブローカー/エージェントは顧客獲得を目的としてコミッションの一部を顧客に払戻しすることができる(米国では多くの州が“Antirebate Law=払戻し禁止法”で保険契約者への手数料払戻しは禁じられている。 カリフォルニア州ではこの提案103条により払戻し禁止法が廃止された)
自動車保険の料率変更には事前承認が必要
保険会社は過度な、又は不当に差別的な料率を適用してはならない、 等


直接的な非難

複合的流通チャネルを模索している他の多くの保険会社の例にもれず、プログレッシブも同様の呪文を唱えている: “我々は顧客が望むのであればどんな流通方法でも採用する”と。 問題は: 3万の独立エージェントを抱えている保険会社がほんの一部とはいえそれらのエージェントを飛び越えて販売し、独立エージェントから反目を受けずにいられるだろうか? 一部のエージェントは断固として‘ノー’と答える。 “取引保険会社を選択する権利を私は持っている”とミラー氏は語る。

プログレッシブの直販に対し不安を感じていないというエージェントも存在する。 “私は同社の直販政策に対し危機感は感じていない”と前述のレビット保険エージェンシー社のスクール氏は語る:

“昨日プログレッシブのフリーダイヤル800 AUTO PROを通じて見積を取り寄せたと言う紳士から連絡を受けた。 彼は独立エージェントを通じて保険を付けること希望している。 プログレッシブがフリーダイヤルでの見積照会を行なっているからこそ、私にこの契約が回ってくるチャンスがあるのです”と。

しかし、ミラー氏は、独立エージェントの紹介を行なっていないプログレッシブのTVコマーシャルを見たことを指摘する。 ザイツリン氏に確かめたところ制作した多くのTVコマーシャルの中で一つだけ独立エージェントについて触れていないものがある、と答えている。

にも関わらず、ザイツリン氏は同社の直販が独立エージェントと対立するものではない、と主張している:

“直販によって獲得した契約者というのはダイレクトライター − 例えばステートファームのような − から奪った顧客である。 我々は独立エージェントの顧客を奪っているわけではない。 独立エージェントの顧客で当社の直販の契約者になるというのは極僅かにしか過ぎない”

更に、ルイス氏は、プログレッシブの広告がブランドイメージを高めるのに大きく貢献していることを強調する。 実際、同社は広告に於いては最も目立っている会社である。 NFLフットボールをスポンサーし、更に、スーパーボールのスポンサーでもあった。 又、インターネットの世界でも抜きんでている。 インターネットを通じての販売や顧客が最寄りのエージェンシーを見つけるためのソフトウェアには最新テクノロジーが用いられている。

“プログレッシブはスーパーボールのスポンサーとなった時、全国規模の会社としてのブランドへの大きな一歩を歩みだしたのだ”とIIAA(アメリカ独立エージェント協会)のコミュニケーション部門副社長ピーター・ヴァン・アーツリック氏は語る:

“GEICO(注4)は非常にプログレッシブを恐れているが無理もない。 プログレッシブは優れたアンダーライティング手法、テクノロジー、そしてインターネット上でも有能である。 全国的にも、更には、エージェントを通じて地域的にもブランド・イメージを創り出した。 非常に力強い会社である”


GEICO: ダイレクトメールによってマーケティングを行なっている拡大しつつあるダイレクトライターの一社。 筆者自身少なくとも一月に一度は同社のダイレクトメールを受取る。 TVコマーシャルでは冴えないスーツ姿の独立エージェントを登場させ、彼等を通さないことによって保険料が引き下げられる、といったメッセージを消費者に送っている。 独立エージェント協会ではGEICO社に対し抗議している。


勿論、批判を受けない保険会社などありえない。 プログレッシブはエージェント問題から決して隠れるようなことはしない、と主張している。 しかし、複合流通チャネルを選択した時、同社は《パンドラの疑惑の箱》の蓋を開けてしまったのだ。 疑惑や不信感は簡単には消え去らない。 同社の意図はビジネス上健全であったとしても、重要な利害関係者の一部(独立エージェント)は騙されたと感じているのではないか?

時々、同社の言い分は道理に合わないように見える。 例えば、ルイス氏は“当社のインターネット上の新広告キャンペーンは、エージェントを飛び越えて直接顧客にメッセージを送っているということからエージェントと対立すると考えるでしょう。 しかし、「最寄りのエージェントにご連絡下さい」という一言も加えられています” と語っている。 しかし、エージェントを飛び越えて顧客に直接呼びかけるという媒体を使いながら、エージェントの利益を優先していると言えるだろうか?

IIAAのCEOであるジェフ・イエィツ氏は、プログレッシブ社はエージェント問題にもっと親身に取組むべきであると語る:

“私は同社のアンダーライティング手法、クレームサービス、他より安い保険料を高く評価している。 個人保険分野における同社の業績はもっと高い評価を受けても良いいとも思う。 しかし、同社がエージェントとのより確かな信頼性を築くにはもっと彼等との関係に焦点をあてるべきである。 手数料体系、プロフィット・シェアリング・プラン、委託契約書、そして、独立エージェントにとって魅力のあるマーケティング手法などの再構築、そして創造に力を入れる必要がある”と。


OCopyright Independent Agent, May 1999; used with permission
「The Progressive Dilenma」 by Russ Banhamより

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